第4世代抗うつ剤の今後の展開と私自身の期待
今年 5 月、選択的セロトニン再取り込み阻害薬(Selective Serotonin Reuptake Inhibitor : SSRI)がわが国でも発売され、精神科ばかりでなく一般医家にも大きな影響を与えました。第 3 世代抗うつ薬であるSSRIに続き第 4 世代抗うつ薬のセロトニン・ノルアドレナリン再取り込み阻害薬(Serotonin Noradrenaline Reuptake Inhibitor : SNRI)が承認を取得したのは、うつ病治療において大きな変革であると考えます。
抗うつ効果の薬効薬理について、Kielholzのシェーマによると、NAは精神運動抑制が、5-HTは不安、攻撃性が標的症状になると説明されており、これを抗うつ薬の使用の指標として理解してきたのです。しかし、薬理学的事象と実際に現れる臨床効果との間にはギャップがあり、薬理学的特徴をもって、すぐに臨床効果あるいは臨床効果の内容にまで踏み込んでいくことには慎重になるべきだということが言えるかと思います。
しかし そうはいっても現在分かっている薬理学的事実から考えてみますと、5-HTは縫線核を起始核とし脳全体に均一に分布しています。NAは青斑核を起始核とし、やはり広範に分布しています。それだけに両者は精神活動に幅広く関与しており、実際の脳内のネットワークからすると緊密な相互関係を有していると考えるのが妥当であると言えるでしょう。
例えばNAが縫線核の5-HT細胞に対して促進的に作用しており、選択的なNAの再取り込み阻害薬を服用している患者さんに5-HT遊離促進剤であるフェンフルラミンを投与すると、臨床的に見てもそのセロトニン分泌効果が増強されることが知られています。また、5-HTに選択的であるSSRIを
3〜4 週間反復投与すると、縫線核の5-HT細胞の5-HT1A受容体が脱感作し5-HTの放出を増大させトータルとして5-HTの機能を促進させることが、明確なデータとして報告されるようになり、これをうつ病の奏効機転に結びつけようとする方向にあります。(従来言われてきたβ受容体のダウンレギュレーションが奏功機転に結びつくという考えも未だ根強いが、SNRIは効果発現時間が異常に早いので、このダウンレギュレーションによる奏功機転に対しては疑問を持たざるを得ないと私は考えます。)
こうした事実を総合的に判断するとSNRIのように5-HTに加えてNA機能増強を合わせ持つ薬剤は、SSRIの効果をさらに増強する薬剤であると考えられます。また、NA再取り込み阻害作用により前頭葉の大脳皮質のドパミンの機能を増強することも分かっていますので、SSRIに比べてSNRIは5-HT,NA,ドパミンという神経伝達物質に幅広く作用する可能性があります。このことが臨床的にどういう意味を持つのかということを検討することは重要です。すなわち、SSRI等第3世代の抗うつ剤では効果発現の遅さ、最大効果の低さ、長期投与での再発といった問題点が指摘されており、こうしたことをNAやドパミンで解決できないか、と期待しています。
効果発現が早くSSRIよりも消化器症状が少ないのでもっと使いやすい薬かもしれないと期待しています。さらに、SSRIは軽症、中等症の外来で治療する患者さんには使いやすいですが、デンマークで行われた入院患者を対象としたSSRIのシタロプラムとTCAのアミトリプチリンとの比較試験では、アミトリプチリンのほうが有意に効果がありました。入院患者にはTCAのほうが優れているということですが、その理由の 1 つにアミトリプチリンには5-HTとNAの両方の再取り込み阻害作用があることが挙げられています。したがって入院患者にはTCA、外来患者にはSSRIという使い分けが米国でもできあがっています。ミルナシプラン等第4世代抗うつ剤はその両方に適応があるかどうかが今後の課題であり、入院患者のような重症例にも適応が広がる事を私は期待しています。
ミルナシプラン等第4世代抗うつ剤はいかなる受容体(TCAで言われてきたムスカリン性アセチルコリン受容体、ヒスタミンH1受容体、α1受容体)にも親和性を持たないので副作用を含めた安全性に大きな期待が持てるわけです。ミルナシプラン等が臨床で使われている欧州での臨床データを96年にMontgomeryが報告しており、それによると抗コリン性の副作用の代表である口渇はTCAが37.3%、ミルナシプラン、SSRIは数%とプラセボと差がありません。さらには、眠気・振戦に関してTCAが10%台であるのに対して、SSRIとミルナシプラン等はプラセボと差がありませんでした。SSRIの投与初期に問題となる悪心はSSRIで20.1%ですが、ミルナシプランで11.2%、TCAで8.4%、プラセボで10.9%であり、ミルナシプランとTCAはプラセボと差がありません。このように明らかに副作用が少ないことが欧州のデータからも言えます。ミルナシプランにはキニジン様作用がなく、けいれん閾値を下げることもないので、重篤な心毒性や、てんかん等のけいれん誘発性の心配もありません。ただ 1 つ副作用として懸念されるのは排尿困難です。抗コリン作用により起きる排尿困難は知られていましたが、ミルナシプラン等の第4世代抗うつ剤の場合はNA作用の増強によるものではないかと考えられています。Montgomeryの報告でも排尿障害の発現率はミルナシプランが2.1%であるのに対し、SSRIは 0.3%とプラセボと同程度でした。排尿困難には気をつけるべきでしょう。
今後の第4世代抗うつ剤の展望及び期待
SNRIのベンラファキシンは米国で全般性不安障害の適応を取りましたし、さらにさまざまな不安障害の適応拡大の臨床試験が始まっています。いずれ、パニック障害、社会恐怖、神経性過食症という方向の流れになってくると考えられます。ミルナシプランについても抗うつ効果のみならず、不安障害を含めた幅広い臨床効果に発展していく可能性を秘めています。
私自身は、以前から5-HTとNA両方に作用する薬剤がうつ病の治療に最も優れていると考えていました。外来で治療できるうつ病ではSSRIや選択的NA再取り込み阻害薬でも十分に治療効果が期待できますが、治療抵抗性の症例には5-HTとNAの選択的再取り込み阻害薬を意識的に併用して使うのが私の考えで、アモキサピンやノルトリプチリン、クロミプラミンもしくはトラゾドンという併用を勧めています。ですから,うつ病に関してはSNRIが最も優れていると考えているわけです。まだ臨床データが少ないですけれど、これから期待できる薬剤です。
効果が高くて副作用のない薬剤が当然望まれるわけですが、それに近づきつつある薬剤ですから私も期待しています。ミルナシプランについては米国主導の臨床データがほとんどありませんから、日本から海外に情報発信できる臨床データを蓄積すべきだと思います。第IV相試験でTCAやSSRIとの科学的な二重盲検比較試験を行い、その情報を世界に発信できたらいいと思います。
第IV相試験では実証的な二重盲検比較試験を行おうとしても制度の問題があり難しいのが実情でしたが、薬事規制のハーモナイゼーションによりボーダーレスとなり、今では実行できる環境が整いました。SNRIとSSRIとの比較試験など色々な観点から第IV相試験のデザインを考えることが大切だと思います。
おそらくSNRIはうつ病に最も有力な武器になるだろうということです。そのためには、臨床データの積み上げが今後の課題であり、日本から海外に発信できるデータを第IV相試験に期待します。速効性、重症症例への適応、安全性、用法・用量などについてもきちんとして行うことを望みます。
ベンラファキシンやデュロキセチン等が早く日本でも認可される事を強く望む、管理人こと私からのメッセージでした。
最後までお読みくださり、まことにありがとうございました。今後、これら第4世代抗うつ剤の進化と第3世代抗うつ剤との組み合わせにより、うつ病が駆逐される事を私は確信しております。
ここで、私の予想に反して意外なほど効果を上げたSNRIに対して、敬意を表します。
最後に、第4世代抗うつ剤の開発に携わった研究所の開発者様及び関係各位殿に対し、感謝御礼申し上げる次第であります。
文責 drugmania