2000.10.29

ヘリコバクター(H)・ピロリ感染による胃潰瘍や十二指腸潰瘍に対する三剤併用除菌療法

米国ではもう大分前から利用されている、この3剤併用療法が、日本でもようやく11月1日から医療保険で受けられることが決まった。27日の中央社会保険医療協議会総会で了承されたもの。この治療法は除菌の成功率が約9割と高く、再発率も従来のH2拮抗剤が約20%であったのに対し、2%程度に抑えられるといわれる。(米国では実績あり)

なお、3剤併用には他にヘリコバクター・ピロリ菌を保持しているかどうかの検査と合わせて保険適用となる。

薬剤の投与については、PPI1回30mg、抗生物質のアモキシシリン1回750mg(力価)、クラリスロマイシン1回200mg(力価)の3剤を同時に1日2回、7日間にわたり経口投与する。

三剤併用療法に用いられる医薬品

1.PPI(ランソプラゾール):タケプロンカプセル15、同30(武田薬品)

2.マクロライド系抗生物質(クラリスロマイシン):クラリシッド錠200mg(ダイナボット)、クラリス錠200(大正製薬)

3.ペニシリン系抗生物質(アモキシシリン):アモキシシリンカプセル「トーワ」(東和薬品)、アモピシリンカプセル250(大洋薬品)、アモリンカプセル125、同250、同細粒(武田薬品)、サワシリンカプセル、同錠250(昭和薬品化工)、パセトシンカプセル、同錠250(協和発酵)、ワイドシリン細粒200(明治製菓)

 

2000.10.27

オランザピン(ザイプレキサ)とバルプロ酸ナトリウムの併用によるハンチントン舞踏病の改善

詳細は不明

 

テロメア延長過程をチェックするPif1p蛋白質

Zakian教授は、染色体の末端を複製、延長するテロメラーゼという酵素の活性を抑制する蛋白が自然に産生されていることを発見。Pif1pと呼ばれるこの蛋白(通常大文字で始まる名前はタンパク質自体を、小文字で始まるものはその遺伝子を指します)はテロメアと呼ばれる染色体末端部に直接作用し、テロメアを延長する過程を常にチェックしている事が判明しました。(染色体の真ん中あたりをセントロメア、末端部分をテロメアと呼んでいます)

同教授らは過去15年にわたって、細胞の老化あるいは癌化に中心的な役割を果たしていると考えられるテロメラーゼを熱心に研究してきた。テロメラーゼは癌細胞の90%に存在するものの、ほとんどの正常細胞では認められなかった。そこで,癌研究者らはテロメラーゼを阻害する方法を模索。同教授は、Pif1pの活性を模倣あるいは促進することがテロメラーゼ阻害の良い方法だろうと主張しているようです。

テロメラーゼは,テロメアと呼ばれる染色体の末端構造をつくり出す。テロメアは通常の細胞では、細胞分裂のたびに短くなり,最終的に生存等に必要な染色体までが曝露されると細胞は死んでしまいます。しかし、癌細胞ではテロメアのキャップ(キャップ構造:テロメアによる染色体末端の保護機構のようなもの)が常に再構築されており,細胞の正常な老化が妨げられています。

1994年にZakian教授と共同研究者のVincent Schulz氏は、Pif1pがテロメアの延長を抑制していることを明らかにしたが、Pif1pがどのように作用しているのかは不明のままでした。同教授によると、間接的に作用してテロメアの延長を阻害する物質は自然界に数多く存在しているそうです。この論文は、Pif1Pがテロメラーゼの経路自体に作用し、テロメアDNAに直接働くことを示した。これは薬品開発にとっては魅力的な特徴と言えます。

Pif1pの興味深い点として、これが特別なタイプの酵素ヘリカーゼ(ヘリカーゼという名前の酵素はDNAのらせん構造をほどく役割を果たす:ヘリックスからきている名前)であり,DNAの二重らせん構造をほどくことが挙げられる。同教授らの研究チームが、二重らせんをほどく能力を欠くPif1pを産生するように変異させたPif1p遺伝子を作製し、テロメラーゼを豊富に持つ細胞にこの遺伝子を導入したところ,Pif1pは作用せず,テロメアの延長はチェックされることなく進行した。同教授は、Pif1pはテロメアが合成されるときにテロメラーゼと染色体の間に形成される一時的な結合をほどくことで働くと考えた。

同教授によると,実験は酵母菌を用いて行われたが,テロメアの調節は進化を越えてヒトの細胞でも機序の大部分が同じである非常に重要な機能であるという。同教授は「われわれは酵母菌を用いたが,この研究で示したようにヒトにも酵母菌のPif1pとよく似た蛋白が存在している。もし、この蛋白がヒトにおいても同様の機能を持つことが明らかになれば,ヒトの癌研究に新しい知見をもたらし、満足のいく成果が得られるだろう」と述べています。

 

神経伝達受容体の構造解明 世界初、新薬開発も期待

中枢神経を信号が伝わる際に重要な働きをする神経伝達物質の一つ、グルタミン酸(味の素ですねぇ)の受容体の立体構造を、生物分子工学研究所(大阪府吹田市)の陣上久人・機能解析研究部門長らの研究チームが世界で初めて解明、二十六日発行の英科学誌ネイチャーに発表しました。

神経細胞の突起から放出された伝達物質は、隣の神経細胞表面の受容体が受け取ることでそれぞれの受容体による異なった信号が伝わるとされています。中でもグルタミン酸を介した神経伝達は、精神分裂病やてんかんなどの脳疾患や記憶のメカニズムなどに関与している事が報告されていて、受容体の構造解明は新薬開発にもつながると期待されています。

研究チームは、ラットの受容体の結合部分を結晶化させ、スプリング8(兵庫県三日月町)の強力なエックス線で構造を解析した。(タンパク質の詳細な構造解析は、結晶化させたタンパク質をX線の反射を使用してÅ(10のマイナス8乗レベル)の解像度で行われる事が多い。)

その結果、受容体は双葉を二つ重ねたチョウの羽のような形をしており、重なった双葉の角度が狭いものと広いものの二種類あることが分かった。グルタミン酸が結合すると、それを挟み込むように必ず狭くなり、逆に広いものでは結合していないことが分かり、それぞれを活性型、不活性型と名付けた。活性型になると細胞内部にある受容体の基部も変化し、信号が出るらしい。

ただ、グルタミン酸がなくても角度が狭い活性型は存在していた。グルタミン酸があると活性型の比率が高まり、信号伝達効率が上がるとみられるという。

研究チームは「こうした仕組みは、神経伝達のあいまいさとも符号するのではないか」としている。

 

万能細胞から大量の神経 パーキンソン病治療に道

どんな細胞にもなる可能性を持つ、マウスの「万能細胞」(ES細胞)を試験管内で成長させ、神経伝達物質ドーパミンを分泌する神経細胞を大量につくることに、京都大再生医科学研究所の笹井芳樹教授らが成功、二十六日発行の米科学誌ニューロンに発表した。

日本では人のES細胞を使った研究は認められていないが、今回の方法は、人でも応用できそうで、脳内のドーパミンが不足し運動障害などが出るパーキンソン病の治療にもつながる成果として注目される。

ES細胞は分裂を始めた受精卵からつくられ、神経や筋肉、内臓などの細胞に成長させる研究が世界で進行中。損なわれた臓器や組織をつくる「再生医療」への応用が期待されているが、狙った細胞を効率的につくるのは難しかった。

笹井教授らは、細胞の分化を促進するストロマ細胞(骨髄幹細胞)をマウスの骨髄などから抽出。これを培地に培養したところ、約九割のES細胞が神経細胞に分化。うち約三割がわずか八日間でドーパミンを分泌する細胞になり、従来より短期間で、非常に効率よくドーパミン神経細胞がつくり出せた。

途中で分化を阻害する物質を加えると、ES細胞は皮膚の表皮細胞になることも判明(これはおそらく神経も皮膚も受精卵の分化時点では外胚葉由来だからであろう)。笹井教授は「特定の細胞をこれほど効率的につくった例はなく、神経以外の細胞生成にも影響を与えそうだ」としている。

京大では今年九月、人間と同じ霊長類である猿のES細胞づくりに成功しており、笹井教授は「近く、猿のES細胞でも今回と同じ実験を始める。人への応用が三年程度で始まる可能性もある」と話している。

 

レム睡眠行動障害

大声で寝言、暴力的な夢が行動化、夜間せん妄との鑑別が重要

レム睡眠行動障害(REM sleep behavior disorder,RBD)は、睡眠中に夢の内容と一致して行動化を呈する睡眠時随伴症の1つで,高齢男性に多く発症することが知られている。1986年にSchenckが疾患概念として初めて提唱し,90年に睡眠障害国際分類診断に採択された。睡眠障害を専門とする医師以外にはあまり知られていないことから,夜間せん妄や痴呆と誤診されるケースも多いという。久留米大学精神神経科(睡眠障害クリニック)の内村直尚助教授に,RBDの診断やメラトニン療法の有用性などについて聞いた。

脳幹部の錐体路抑制機構が障害

夢を見ていることが多いとされるレム睡眠は,ノンレム睡眠に比べて脳の眠りが浅く,急速眼球運動(rapid eye movements=REMs)と骨格筋の筋緊張低下が特徴的に見られる。  1986年にSchenckらは,レム睡眠中に暴力的な異常行動を呈する症例について報告し,RBDと命名。これらの患者の終夜睡眠ポリグラフ(PSG)検査では,オトガイ筋の筋電図で筋緊張が消失(atonia)しない異常なレム睡眠が高頻度に認められる。正常なレム睡眠では,脳幹部の橋の神経機構(青斑核)が延髄大細胞網様核を介して錐体路の出力を遮断し,全身の骨格筋の筋緊張を抑制することで,夢体験は行動化されない。RBDでは,この錐体路抑制機構になんらかの異常が生じ,夢体験が行動化されると考えられているが,その詳細な病態や発症機序は解明されていない。

少なくとも成人の0.2%で発症

国内でのRBD発症数は不明だが,潜在患者が相当数いることを示唆するデータもある。内村助教授らが一般市民など 1 万1,171人(男性4,154人,女性7,017人,平均年齢33.6歳)を対象に行ったアンケート調査によると,「20歳以降に夢内容に関係して激しい寝言を発したり,起き上がって手足を動かしたことがある」と答えた人は15.9%で,「夢を見て実際に暴力的な行動を生じたことがある」と答えた人は0.4%(男性0.6%,女性0.3%)であった(n=7,954)。PSG検査が行われていないためRBDの発生頻度は正確にはわからないが,同調査の結果から,同助教授らは少なくとも0.2%程度の患者が存在すると見ている。

RBDは,症候性と特発性に大別でき,前者はパーキンソン病,脊髄小脳変性症やシャイ・ドレーガー症候群などの脳幹部を障害する疾患で高頻度に見られる。一方,約半数に見られる特発性RBDは50〜60歳代以上の男性に多い。  RBDに特徴的な兆候は,追い掛けられる,けんかするなどの抗争的,暴力的な夢を頻繁に見るようになること。その数か月〜 1 年後,激しい寝言,夢に一致して手足をばたつかせるなどの睡眠中の異常行動が徐々に出現してくる。会社の同僚とけんかする夢を見ていたという男性患者は,タンスに激突して本人が骨折したり,隣で寝ている配偶者を殴る,蹴るなどの暴力行為を認め,負傷させることもあったという。「睡眠中の患者の異常行動に気付いた配偶者などからの相談も多い。レム睡眠の割合が多くなる午前 3 〜 5 時ころに症状が出やすく,一晩に 2 〜 3 回起こる例もある。もともと攻撃的な性格の人に発症しやすいわけではなく,むしろ周囲から温厚で協調性があると見られているが,攻撃性を秘めたような人に多い傾向がある」と内村助教授。

RBDの診断には,臨床症状およびPSG検査にてレム睡眠時におけるオトガイ筋の筋電図において筋緊張の増加(前出図)を確認することが必要。内村助教授は問診のポイントとして,ベッドパートナーや家族に,(1)睡眠中の異常行動の最中に声を掛けて起こすと,患者はすぐに目覚めたか(2)患者を起こした直後,どんな夢を見ていたのかを尋ねると,夢の内容や異常行動との関連を説明できたか(3)翌朝,患者は起こされたことを覚えていたか−の 3 点をチェックしてもらうことを挙げている。RBDの異常行動の場合は,声を掛けて比較的覚醒させやすい。覚醒直後に疎通は良好で,尋ねると夢内容が行動に移されたと考えられる夢を想起でき,翌朝も声を掛けて起こされたことを想起できる。鑑別が必要な疾患としては,夢中遊行,前頭葉てんかん,せん妄,痴呆患者の夜間異常行動などが挙げられる。

RBDの治療には,おもに抗てんかん薬クロナゼパムが使用されている。臨床症状の注意深い問診からRBDと診断できる場合は,PSG検査を待たずに同薬を投与(0.5〜 2 mg/日)して様子を見てもよいが,徘徊や暴力などの異常行動が顕著に認められる重症例については,本人や家族が負傷する危険性も高いことから,睡眠障害を専門にする医療機関への紹介が望ましい。クロナゼパムの投与を開始して 1 週間ほどで,約 8 割の患者は異常行動がなくなるか,頻度が著しく減少する。しかし,高齢者では,同薬の副作用(翌朝の眠気やふらつき)が転倒などの原因となる場合がある。

15例中13例でメラトニンが有効

一方,Kurzらが症候性RBDに対しメラトニンが有効であることを最近報告した。わが国では,メラトニンは市販されていないが,第 I 相臨床試験が日米同時に開始されており,今後,同薬の果たす役割が注目される。内村助教授らは,高齢患者に対しても安全性の高い治療薬としてメラトニンに着目し,RBDに対する有効性を検討した。対象は,1999年11月〜2000年 5 月までの 7 か月間に,睡眠中の異常行動を主訴として久留米大学病院の睡眠障害クリニックを受診した患者で,臨床症状やPSG所見からRBDと診断され,メラトニンによる治療に同意の得られた15例(男性14例,女性 1 例,平均年齢63.5±2.5歳;表)。全例が特発性RBDで,頭部MRI所見で神経変性疾患の合併が認められた例はなく,1 例のみで多発性微小脳梗塞が認められた。飲酒や心理社会的ストレスは増悪因子であると考えられたが,必ずしも関連が見られない例もある。

メラトニン投与(就寝30分前に内服)は 3 mgから開始。2週間後,臨床症状の改善が十分でない場合は 1 日 6 〜 9 mgまで増量。治療の前後で,臨床症状,PGS検査による睡眠パラメーターの変化を評価し,治療効果を判定した。  その結果,メラトニンを投与したRBD 15例中13例で,臨床症状の改善が認められた。PGS所見としては,メラトニン投与後,オトガイ筋の持続性筋緊張増大(tonic activity)は16.43±3.27%から5.99±1.41%に減少し,有意(P<0.01)な改善を認め,相動性筋緊張増大(phasic activity)についても51.69±42.27%から7.64±1.2%に減少した。睡眠パラメータについては,有意な変化は見られず,メラトニンは睡眠の質に影響を与えていないことが示された。同薬による副作用は現在のところ報告されていない。

PSG所見の検討から,メラトニンはtonic REMを,クロナゼパムはphasic REMを抑制する作用がより強いことがわかってきた。夜間のメラトニン血中濃度(治療前)の低い症例では,メラトニン投与の有用性が高い傾向が見られており,メラトニン療法の 1 つの指標になる可能性がある。